三つの月

舞台は、山あいの美しい町。いつもと、変わらない山。変わらない川。変わらない緑。美しいが、退屈でもある。ヒロイン、小坂繭（まゆ）は、妻であり母であり嫁である。夫の面倒をみ、息子の世話をし、長患いをする姑の看病をする日々の中、\n \n 　　「お母さん」という脇役に、息苦しい孤独と静かな絶望を抱えていた。\n \n 　　そんな中、東京からその地方にやって来た男涼風蒼太とひょんなことから知り合い繭は、恋をした。道ならぬ恋。ふたりの心は通じ合っている。そのことは、ふたりだけの秘密だ。\n \n 　　生きてるか死んでるかわからなかった日々で、手に触れるだけで、自分に血が通う気がする。自分が、息を吹き返す気がした。抱きとめてくれる人がいたなら、きっと、きっときっと誰だって走り出す。繭にとって、それは切実な恋だったのだ。\n \n 　　ある一つの恋。それが、今、そのさなかにいる時。恋は、ずーっと月日がたって、何年もた... 展开>> << 收起